カナディアンソーラーを潜入レポート

著者は,わが国の公害対策,とりわけ水銀対策の歴史を検証して,リスク管理としては,特定物質のみに偏った政策を引き起こしてしまったと指摘し,リスク・ベネフイット原則にもとづいたリスク論を展開し,最後に今後の地球環境問題をも視野に入れた生態リスクへのアプローチについて論じる。 評者は,社会科学の分野に属する者であるが,ここでの N 教授の有害化学物質をめぐる環境政策への批判,とりわけ特定の問題となった物質のみに施策が限定される「極端から極端に走りながらきわめていびつになった」とする批判には共感でき,トータルな環境リスク低減が環境政策の方向とされる必要性を痛感するものである。
また,環境被害を個人補償と直結させる従来の日本の考え方からすれば,リスク論は,個別被害とは別ごとであって,考え方の枠組みを異にするというここの指摘も重要な指摘であると考えられる。 むろん著者もいうように,高いリスクの領域では個人補償もありうるし,確率に応じた法的責任論も成立しないとはいえない。
しかし,環境政策としてとりあげられるべきリスク・レベルと補償問題でのそれとでは質的な相違があることを理解しないままに論議が展開されることのないように配慮する必要がありそうだからである。 現在までの行政施策の中での環境リスクの取組みは,科学的知見の限界もあるため,主に人の健康リスクの分野に関連させて論じられることが多い。
しかし, N 教授は,生態リスクを「未来環境リスク」として位置づけ,このような概念によって,地球環境問題を丸ごと捉えるような考え方をめざすとされる。 あとがきにある生態系のリスクの分野が「死の情報に満たされ」「どう生きているかの情報」がない,との指摘にも納得させられるものがある。

このような分野をも含めた環境のトータルな把握,という発想は,直ちに科学的・技術的に実現できるものとはいえないとしても,環境政策を研究し,その立案に係わる者が,常に意識しておくべき事柄であることを改めて教えられる。 ここに啓発されてリスク論が活発になることを期待し,あわせてここで予告されている,「未来環境リスク」の評価・管理についての著者の続編に大いに期待したいものである。
Y・A・ T・A編『環境法」(K 閣,1995年)T・M( O 学院大学法学部)かつての我が国の環境法制は,公害対策基本法のもとで,主として公害規制,被害者救済を中心とする法体系で構成されていた。 また自然環境保護の法制度はこの公害対策基本法とは別個の法体系と観念されていた。
この時代を代表する環境法の教科書としては,原田尚彦著『環境法(補正版)』その他いくらかの著書があった。 しかし1980年代後半からわが国の環境行政は諸般の要因により次第に変化をせまられ,国内的な問題とともに,国際的・地球規模的な課題に対応せざるを得なくなってきた。
とくに平成5年に環境基本法が制定され,この法律は新しい理念の下に,従来の法的枠組みを超えた包括的な基本法として現代的課題にも対応しようとしている。 ここは,この環境基本法のもとで,「はしがき」にあるように,現在の環境問題はその対象が広がるとともに複雑化し,空間的のみならず時間的にもグローバル化しているという認識のもとに環境法の体系を総合化しようとする意欲的な著書である。
しかし環境問題は人間が環境に与える影響と自然の生態系との相互関係において捉えるならば,その解明に役立つ知識は法律学のみならず自然科学,人文科学,経済学などの社会科学の総合的なアプローチを必要とする。 環境問題を十分に理解するためには,法律学の範囲内においても,その対象は必然的に範囲が広がるという性質は免れえず,各個別法の分野での個々の研究のみでは不十分である。

ここの「はしがき」では,ここが教科書として利用されることが期待されている。 しかし,ここを大学の教科書として利用するとき,講義の担当者は非常な労力を要することになる。
何故なら環境法を独立の講義科目とするとき,行政法,民法,国際法,刑法等(場合によっては経済学も)について一通りの知識をもつ必要があるからである。 その意味で,ここは単なる学生用の教科書でなく研究者のための教科書でもある。
書評という職責を果たすため最後に少し希望的意見を述べよう。 第一に,環境法の体系はここと異なった構成を採ることも考えられる。
例えば環境汚染や公害の概念,環境法の基本原理について章を設けることや,地方公共団体の環境行政について章を設けることも可能であろう。 第二に,環境汚染は資源の採取から商品生産とその消費の過程から生じる代謝産物の循環が機能しなくなること,及びこの過程に関与する人間の活動が土地利用という形をとるところから,環境問題は単に環境基本法の守備範囲に止まらず人間の環境に影響を与える全ての行為をも対象とすることも可能であろう。
この点で開発計画諸法,土地利用計画,歴史的・文化的環境の保護及び地域地区制などの規制諸法についてもう少し記述が欲しかった点である。 また廃棄物処理に関しては現実にシステムを動かしている自治体の取組みの現状をも記述が欲しいところである。
第三に,細かい点であるが,国際環境法の分野では条約を実施する上での国内法の取組みの現状についての記述や,外国法の分野では中国や韓国の環境法の現状にも触れて欲しかったといえよう。 その他更に細かくいえば,重複があること,私によって内容に濃淡があり文章スタイルも異なる点などがあるが,ここは13人の研究者を動員したというところから止むを得ないところであろうか.私も大学の講義ではこれを教科書として使用していることを付け加えておく。
M・A著『自然保護という思想』( I 新書,1994年)( K 環境研究所)先頃,アンアーバーでまとめて購入したAndrewDobsonの著作を繰っていたら,ecologismとenvironmentalismは全く違うもので,ecologismはpoliticalphilosophyの中の一つの思想であるが,environmentalismは政治的な手段に過ぎない,と書いてあった。 その本でDobsonはなぜ自然は保全されなければならないか,ということについて論を展開し,資源としての見方などいろいろいわれているが,なんといっても「intrinsicな自然」という観点が重要なのだと力説する。
N 先生の著作を読んでいて,このDobsonの議論をずっと思い出していた。 N 先生は,Dobsonに言わせれば,practicalなecologistというのではないだろうか。
思想を持った実践者である。 この『自然保護という思想』には,日本の自然保護施策がどう変遷してきたか,どうあるべきかが,綿々とつづられている。

現場に携わり,発言してきた研究者の重みが感じられる。 「環境保全」「地球環境」と頭では考えているが,実態を全くつかんでいない「学者さん」には必読の書である。
実態を知るだけに,内容は鋭い。 日本の自然保護行政の盲点をついている。

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